家富みてあかぬことなき身なりとも人のつとめにおこたるなゆめ
人は自分が豊かになると怠惰になる傾向がある。そして、人や物も粗末に扱うようになる。
それはいずれ枯渇する豊かさである。
人のつとめとは何であるか。
それは国全体が豊かであるように働き続けることであり、
そして、天地の理に沿って人なりの自然を調えることでもある。
家の風ふきそはむ世もみゆるかなつらなる枝の茂りあひつゝ
家系は樹木に喩えられる。
家風、すなわち家の在り方がそれぞれに分かれていく今の世にあっても、
樹木の枝が茂り合うように、一連の兄弟や一族が助け合って生きている様子が美しい。
枝は、一部が折れ落ちてしまえば重さが変わり、それまで浴びられていた日の位置も変わってしまう。
一族はそのようにして運命を共にしているものである。
いかならむことある時もうつせみの人の心よゆたかならなむ
どのような事があろうとも、現世にある人々の心は豊かであれ。
辛くとも思う事のさまが広く深く、ものの喩えも多ければ、きっと生きる力を与えてくれる事だろう。
先祖や戦友は幽世より、あなたの心が豊かであることを願っている。
いく薬もとめむよりも常に身のやしなひ草をつめよとぞおもふ
医学は優秀ではあるが、薬によらずとも治る病がいくらでもある。
常日頃より身を健康に保つ山野の恵みを得て暮らしていれば、薬がいるような事態にはそうそうならないものである。
そのようにして、食事だけでなく常々の暮らしを見なおして、少しも苦しむことなく、健やかに身を保ってほしいと願っている。
いくさ人いかなる野辺にあかすらむ蚊の声しげくなれる夜ごろを
夏、戦闘機の飛び交う音(威嚇)が盛んになってきた。
戦地に向かった軍人たちは、今頃どのような野辺で夜を明かしていることだろうか。
しかし、我々の目的にとってそれは蚊の羽音のようなものであるから、少しも心を重くすることはない。
意訳:Caloa Takao