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秋の夜の月は昔にかはらねど世になき人の多くなりぬる

秋の夜の月。中秋の名月。月は一際明るく美しい。

実りの秋。神々と先祖の偉効により、我が国の実りは豊かに栄えている。

その栄光はこの明るい月の光と等しく、長い時を経ても変わらない。

しかし、そうして国の栄に命を懸けて貢献した人々が、

そして未来にも特別貢献したであろう人々こそが、いま次々と世を去ってゆく。

これほどの国の宝を多く失っていることに、生き残っている人々はよく注意しなければならない。


あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな

緑が光る美しい朝。

どこまでも澄んだ大空のように自分の心も広くあろう。

そのような心で言葉を発すれば、目の前の人々の心も大らかになり、

行うこともすっきりと整うものである。


暑しともいはれざりけりにえかへる水田にたてるしづを思へば

夏、煮えかえるような田に、農業を行う人々(しづ)がある。

かれらの苦労のお陰で日本の豊かさは守られている。

その暑さを思えば、まさかこの程度で暑いとは言っていられない。

かれらのように強く生きられるようにならなければならない。


あまたたびしぐれて染めしもみじ葉をただひと風のちらしけるかな

晩秋。幾度も幾度も時雨が降り、紅葉は深く染まって美しくなった。

神々が試行錯誤を重ねて作り上げた国の美もまた同じ。

美しいものは時をかけて作り上げてきたのに、壊れるときはほんの一瞬である。

たったひと吹きで紅葉を散らしてしまう、この風のように。


雨だりに窪める石を見ても知れかたき業とて思ひすてめや

長い雨が続き、決まった場所に落ちる雨だれで、あの固い石にくぼみが出来ている。

弱々しいはずの水も、このように思いを定めて続けていれば必ず成果が現れる。

どのような難しい仕事であっても、途中で諦め捨てることなく、最後までやり抜くべきである。


意訳:Caloa Takao

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