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少し昔の話をしましょう。機械化、AIなどによる自動化の時代に移行するとき、必ず起こる現象があります。それは人間の「不安」による抵抗です。


「仕事が無くなる」と机を蹴って怒っていた先輩

20年以上前でしょうか。機械製造業の中企業に一年ほど正社員として勤めていたことがあります。機械の組み立てと検査を担う企業で、スキルを打ち明けると購買部に配属されました。当時の注文の仕方は、注文書となる「表」をPCで作って印刷し、枠内に手書きで品物と金額を書いてFAXで送り、返信で価格が成立し、成立した最新の情報を手入力でデータベースに反映するといった具合の、信じられないほど非効率なやり方でした。
この企業は忙しい時と暇な時の差が大きく、購買部もほとんどやることがない時期がありました。私はほぼ脊髄反射で、データベースと注文書と履歴を一貫させるシステムをこの暇時間を使って組み上げました。結果、ボタン操作でほとんどの書類作成が自動完結されることになったわけですが、これを見た購買部の先輩(三十代独身男性)は突然机を蹴って怒り出すわけです。「(俺の)仕事が無くなる!」と。

異動後、人員削減で退社

理由を話して退職を願い出ると、常務直下に異動となり経営資料を修正しながら閲覧する立場となりました。ところがほどなくして例の不景気となり、企業は大規模な人員削減を余儀なくされ私も会社都合により退社することとなりました。その後に少し務めた所でも出向先のパナソニックで自動化して(もちろん許可を取って)驚かれたりと、色々と楽しく働かせていただきました。方法は教えておいたのできっと今でも役に立っていることと思います。

現在の現場状況(2024.11時点)

時は過ぎて、さすがに当時のような非効率さは軽減されていると思いますが、皆さんの話を聞いているとやはり知らないが故の苦労をしているところがまだまだ多いようです。社会保険福祉士として働くYさん(六十代女性)が辛そうに話すのは、古いPCでの入力作業。全身を使ってヘトヘトになっているのに、レポートを都度都度手動で入力しなければならない。壊れるまでもったいないから使いたいのは分かりますが、もっと大事にしなければならない人間のほうが壊れてしまいます。「決まり」や「慣行」が障害になっているケースです。(この場合はPCを買い替えるのではなく、各自のスマホを使えるように許可し、ルーターにUSBメモリでも差してデータ共有環境(NAS)を作るか、現存のPCに月一でまとめてバックアップするかすればゼロ~少額の支出で効率化を実現できます。)

自動化で仕事が無くなることは「良いこと」

自動化は、慣れた仕事を機械に託して新しい冒険に乗り出すことと同義ですが、冒険しない人生に甘んじていられるほど、いまの地球は穏やかではありません。気候が変動するということは、人間もまた生き方を変動させなければならないということです。年老いた自分が若いころと同じことを行うことはできません。誰もが省力化を目指して機械を駆使できなければならない時代なのです。

先の先輩は「仕事が無くなる」ことに不安を感じていましたが、そうではありません。私がそうであったように、自動化が済んだ部署はメンバーが減り、必要な部署に新たに配属されるだけのことです。そのようにして次々と創造的に人員は移動し続け、時間とともに少子化し整理され、最終的に少数省力経営という最も理想的な職場になっていくわけです。

「そんなことしかできない」人間は一人としていません。学び、努力すること=向上心を持ち続けることでもっと良い仕事を誰でも構築できます。ここにおいて重要なのは、その向上心を潰すことなく引き出すことができる組織の「美しさ」であり「モラル」です。いま天皇を元首と定める憲法への改正が必要とされるのは、ここに理由があるのです。