日本には様々な言葉がありますが、言葉自体の意味まで教えられることはまずありません。
というよりも、その起源はあまりにも古く秘められた書物に記録され受け継がれていたために、誰もが目にできるものではなかったのです。
私が畏くも手にさせていただいた書には、「東という方位がなぜヒガシと呼ばれるようになったのか」を知る手掛かりが記されてありました。
和歌姫の生い立ちの章
古事記には「流されてしまった」とだけ書かれた昼子姫(和歌姫)ですが、美しく飾られた尊い船に乗せられた姫は、その後川下に暮らしていた翁に拾われることになりました。
翁は姫を大切に育て、様々な知識を授けました。
姫はすくすくと賢く育ち、あるとき翁に「東はなぜヒガシと言うの」と尋ねます。
この時もし姫が尋ねなかったら、私たちは永遠にその起源を知ることはできなかったかも知れません。
翁は答えます。
「東からは日が昇ってくるだろう、『日』の『頭(かしら)』だからヒガシと言うのだよ。」
では西は?北は?南は?
「西は、喩えば火にかけた鍋が煮えて鎮まるように、事が済んで落ち着く方位(煮え・鎮まる) だからニシと言うのだよ。」
「宮の表は南にある。呼んだ人は『来た来た』と言って北に向かって喜ぶからキタと言うようになったのだよ。その前は北はネと言って、寝床がある方角を言ったものだ。寝るのネ、根っこのネはすべて北に通じるものだよ。」
「お日さまが南に上れば強く明るくなり、みんなが見る。『みな見る』からミナミと言うようになったんだよ。」
ヒガシもニシもキタもミナミもこの時代では新しい言い方で、さらに太古には キ、ツ、ネ、サ とひと音で呼ばれておりました。十二支のうちにはネだけが受け継がれています。